営業が持ち帰った新しい案件情報。受注確度は高そうで、利益率も悪くない。 しかし経営会議で誰かが問いかけます。
「それ、取れたとして、今動いてる現場のリソースで足ります?」
この問いに、データを根拠に即答できる会社はどれほどあるでしょうか。
多くの建設会社では、営業部門が見ている「未受注の案件パイプライン」と、工事部門が管理している「進行中の現場」は、別々のExcelや別々のシステムで管理されています。
営業は受注確度を積み上げ、現場は目の前の工程に追われる。その間にある「新規受注が既存現場に与える影響」という最も重要な論点が、どこにも表示されていないのです。
このギャップを一枚の画面で埋めるために設計したのが、今回ご紹介する受注案件シミュレーションダッシュボードです。
なぜ「未受注×既存」を同時に見る必要があるのか
営業と施工で、見ている景色が違う
営業部門が追いかけているのは未来の案件です。
構想策定フェーズで仕込み、比較検討で食い込み、見積提示で価格勝負し、契約手続で受注を確定させる——このパイプラインの積み上げが、営業のKPIそのものです。
一方、施工部門が見ているのは今の現場です。
すでに受注済みの案件で、誰が現場代理人として動き、どの月に監理技術者が必要で、現在の配置は充足しているか。この「稼働中の現実」を捌くのが日々の業務です。
どちらも大切な情報ですが、この2つが別々のダッシュボード、別々のExcelで管理されている限り、「新規案件を上乗せしたときに、既存現場が崩れないか」という最も重要な判断は誰にもできません。
「受注したら、既存現場が崩れた」では遅い
実際に起きがちなのは、次のような事態です。
- 営業が大型案件を受注した後で、監理技術者の配置が既存現場と重複することが判明
- 特定の月に現場代理人のアサインが集中し、既存現場の応援要員を引き剥がす羽目になる
- 資格者の手当てが間に合わず、着工を遅らせて既存顧客にも影響が波及する
これらはすべて、受注判断の前に「既存現場への影響」を数字で確認できていれば回避できたはずの事態です。
しかし、未受注側と既存側を同じ土俵で見る仕組みがない限り、この確認は永遠に後手に回ります。
必要なのは「シミュレーション」という発想
未受注案件を「もし受注したら」という仮定で既存現場の負荷に上乗せし、動員可能人数のラインを超えないかをその場で検証する——これが、本ダッシュボードが提供する受注シミュレーションの考え方です。
こんな場面に心当たりはありませんか?
「大型案件を受注した後で、既存現場との人繰りが回らないと発覚」「営業会議では積極受注、工事会議では悲鳴、経営会議で板挟み」——こうした分断は、未受注と既存を同じ画面で見れば解消できます。次のセクションで、その具体的な構造をご紹介します。
受注案件シミュレーションダッシュボードのご紹介
ダッシュボードの設計思想——上半分と下半分で役割を分けた「二層構造」
本ダッシュボードは、画面を上下で明確に役割分担しています。

BI(ビジネスインテリジェンス)ツールのTableauで構築しており、上と下を同じ動員可能人数ラインで紐づけることで、未受注と既存を一つのストーリーで読み解ける設計にしました。
上半分:これから受注を検討している案件(未受注)
画面上部は、まだ受注していない案件を扱うエリアです。
「ケース選択」には案件フェーズ別(01 構想策定/03 比較検討/04 見積提示/06 契約手続)にパイプライン上の案件が並び、それぞれにケース1・2・3のチェックボックスが用意されています。

ケース1には「攻めの受注ミックス」、ケース2には「堅実ライン」、ケース3には「絞り込んだ優先案件のみ」など、自社の検討したい受注パターンを自由に設計できます。
チェックボックスの切り替えに連動して、右側の人数推移グラフ(ケース1/ケース2/ケース3)が即座に更新され、各ケースでの必要人数推移が描かれます。
グラフには赤点線で動員可能人数125人のラインが引かれ、「どのケースであればキャパ内に収まるのか」が視覚的に判断できるようになっています。
下半分:すでに受注済みで進行している案件(既存)
画面下部は、すでに受注して工事が進んでいる現場を扱うエリアです。
左側の「案件別役割状況」では、進行中の案件ごとに現場代理人・主任技術者・監理技術者の配置状況が「●丁度」「✓余剰」「!調整」で表示されます。
「!調整」とは、外部応援や社内応援、工程スライドなどで現在やりくりして回している状態を指します。
右側の「アサイン状況」では、各案件に誰が何日間アサインされているかがガントチャートで俯瞰できます。

下段に表示される「○○大学医学部附属病院新棟建設工事」「羽田空港第2ターミナル設備更新工事」といった案件はすべて稼働中の現場。
新規案件を上乗せする前の「ベースライン」として機能します。
上下を結ぶ「動員可能人数」というアンカー
このダッシュボードの核心は、上下合わせて動員可能人数(125人)という同一の制約を共有している点です。
人数推移グラフに描かれる必要人数は、下段で稼働している既存案件の負荷と、上段で選択した未受注案件の負荷の合算値。
だからこそ、「新規を取ったら既存はどう揺れるか」が一目でわかるのです。
実際の使い方——3つのステップでシミュレーションする
それでは、このダッシュボードを使って実際にどのような流れで判断するのかを、操作の順番に沿ってご紹介します。
STEP 1:まず下を見る——「いま動いている現場」の状態を把握する
新規案件の検討に入る前に、まず画面下段を確認します。
現時点で社内のリソースがどう使われているかを把握しないまま、上段のシミュレーションを始めても意味がないからです。
案件別役割状況では、たとえば以下のような情報が読み取れます。
- 「羽田空港第2ターミナル設備更新工事」は監理技術者に余剰あり
- 「神奈川物流センター増築工事」は主任技術者が「!調整」の状態(応援要員や工程調整で対応中)
- 「品川シーサイドオフィス設備更新工事」は主任技術者が「✓余剰」だが監理技術者が「!調整」

ここで重要なのは、「!調整」が常時表示されている役割は、社内のリソースに継続的な綱渡りがある証拠だということです。
新規案件の検討に入る前に、まずこの「調整中の役割」がどれだけあるかを把握することが、現実的な受注余力の出発点になります。
続けて、アサイン状況ガントチャートでは、個人別の稼働状況を確認できます。

STEP 2:上でケースを組み立てる——「もし受注したら」のシナリオを検証する
次に、画面上段のケース選択で、検討中の未受注案件を組み合わせていきます。
たとえば、
- ケース1(攻め)には、東日本のすべての見込み案件(渋谷駅東口再開発プロジェクト、宇都宮総合運動場改修工事、横須賀海岸線護岸補強工事 など)に加え、西日本の大阪梅田オフィスタワー建設工事までを含めたフルライン受注を組んでみる。
- ケース2(堅実)では、受注確度の高い見積提示・契約手続フェーズの案件のみに絞り込む。
- ケース3(守り)では、さらに優先順位の高い案件のみに限定する。
チェックを入れ替えるたびに、右側の人数推移グラフが連動して更新されます。動員可能人数125人のラインに対して、
- ケース1:125人ラインに到達気味——既存現場との両立は困難
- ケース2:125人ラインには少し余裕あり——応援体制を整えれば受注可能
- ケース3:余裕あり——ただし売上目標には届かないかもしれない
といった傾向が、その場で読み取れます。

受注の攻めと守りを「感覚」ではなく「動員可能人数という客観的な制約」で議論できるようになるのが、このSTEPの価値です。
STEP 3:影響を掘り下げる——「誰の・何の役割で」調整余地が枯渇するのかを特定する
ケースが絞り込めたら、最後に「そのケースを選んだ場合、具体的にどこに負荷が集中するのか」を掘り下げます。
人数推移グラフで2027年前半のピーク月を見つけたら、画面下段に視線を戻します。

案件別役割状況で既に「✗不足」が出ている役割(たとえば監理技術者)が、新規案件でもさらに必要になるのなら、そのケースを選んだ場合の真のボトルネックは監理技術者の手当てだと特定できます。
案件別役割状況で既に「!調整」が出ている役割(たとえば監理技術者)が、新規案件でもさらに必要になるのなら、そのケースを選んだ場合の真のボトルネックは監理技術者の手当てだと特定できます。
ここで意識すべきなのは、「!調整」中の役割は、すでにリソースを目一杯使ってやりくりしている状態だということです。
そこに新規案件の負荷が乗れば、調整余地は一気に枯渇し、外部応援の手配や工程の組み替えだけでは吸収しきれなくなります。
だからこそ、新規案件で同じ役割が必要になる場合は、受注判断と同時に追加リソースの手当てを意思決定する必要があるのです。

同様に、アサイン状況ガントチャートで「この月に特定の個人が複数案件に重複アサインされる」という予兆が見えれば、応援要員の手配や工程のスライドを受注前に準備することが可能になります。

この3ステップを経ることで、「受注できるかどうか」だけでなく、「受注するなら何を準備すべきか」まで含めた意思決定が、一つの画面上で完結するのです。
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このダッシュボードに必要なデータは何か
「仕組みはわかったが、うちにそんな細かいデータはない」とおっしゃる方は少なくありません。しかし実際には、多くの建設会社が必要なデータをすでに何らかの形で持っています。本ダッシュボードを構築するために必要なのは、以下の5種類のデータです。
① 案件マスタ(未受注案件と進行案件の両方)
案件名・拠点・案件フェーズ(構想策定/比較検討/見積提示/契約手続/施工中 など)・発注予定日・受注金額を含む基本情報です。
未受注と既存をフェーズ情報で切り分けることで、上段と下段にそれぞれ表示しています。SalesforceやExcelの案件管理表としてお持ちの会社がほとんどです。
② 要員マスタ
社員ごとの氏名・所属拠点・役割(現場代理人/主任技術者/監理技術者 など)を管理するデータです。
人事システムや部署名簿がこれに該当します。
③ アサイン実績・予定データ
どの要員が、どの案件に、いつからいつまでアサインされるかを示すデータです。
「確定」と「予定」の区別を持たせることがポイントで、既存案件は確定、未受注案件は予定として入力することで、ダッシュボードの色分け(濃い青=確定/薄い色=予定)に反映されます。
工程管理システムや原価管理システム、あるいは現場別のExcel工程表からも出力できるケースが多いデータです。
④ 保有資格マスタ
社員ごとに保有している建設関連資格(一級施工管理技士・監理技術者資格者証など)を管理するデータです。
人事データの一部として管理されているケースが多く見られます。
⑤ 動員可能人数データ
月ごと・拠点ごとに、社内で動員できる最大人数を示すデータです。
このダッシュボードでは125人を基準ラインとして設定しています。全社的な定数として定義している会社もあれば、拠点長が毎月申告する形で運用している会社もあります。
上記データが全て整っていなくても「できるところから」が大切
上記5つのデータのうち、いくつかは既に何らかの形で社内に存在しているケースがほとんどではないでしょうか。これらを整理・統合するところから支援するのが、私たちのコンサルティングサービスです。「どこから手をつければいいかわからない」という段階からもぜひご相談ください。
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受注判断を「営業の話」から「全社の話」へ
本記事では、受注判断における未受注と既存の分断という構造的な課題に対し、上下二層で統合する受注案件シミュレーションダッシュボードの設計思想と使い方をご紹介しました。
- 上半分=未受注案件、下半分=既存案件という二層構造で、新規受注が既存現場に与える影響をひとつの画面で検証できる
- 動員可能人数という同じ制約を上下で共有することで、「取れるか/取れないか」の議論を客観的に行える
- 3ステップの操作フロー——既存の把握 → ケース組み立て → 影響の深掘り——で、受注前に準備すべき手当てまで見えてくる
- 必要なデータは、多くの建設会社が既に持っている5種類で、すぐに着手できる
受注判断は、長らく営業部門の「勘」と経営層の「決断」に委ねられてきました。
しかし人手不足とコンプライアンス要求が同時に厳しくなる中で、その判断を営業・施工・経営が共通の画面で議論できる環境を持つことが、競争力の源泉になろうとしています。
建設業のDX推進というと、大規模なシステム導入や多大なコストをイメージされる方も多くいますが、まずは「今持っているデータを整理して可視化する」ことが最初の一歩です。
月次会議の資料作成に追われる時間を減らし、その時間をデータをもとにした戦略議論に使える環境を、私たちは一緒に作っていきます。
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